水中撮影の基本的な心構え

Text by 中野誠志

青い海とクシハダミドリイシサンゴの写真

 

水中撮影における基本的な心構えをここでは解説します。

 

これはあくまで中野流で、「私はこういう感じで撮影しています」ということです。私はこういう撮り方の人が増えていってくれたら嬉しいなと思っていますが、もちろんこれが全てではありません。

 

青い海に浮かぶミズクラゲの写真

 

<いつ、何を撮るか?>

水中に入ると、体と心がリラックスし、謙虚で新鮮な気持ちになります。

そんな気持ちで辺りを見回すと、写真に撮りたいものがたくさんありますよね。

 

水中写真は自由ですので、生物をいじめたり害を与えたりしなければ、自由な心で何をどのように撮ってもOKです。

 

ただ、そんな中でも1つアドバイスするならば、ぜひ心が動いた瞬間、すなわちあなたが感動した瞬間や光景を撮影して下さい。

 

そのあなたが感じた感動を適切な方法で撮影することが出来たなら、きっとその写真は他人にも感動を伝えることが出来るからです。

 

水中で写真を撮るという行為が、世界に対して何かしら良い作用を生むのであれば、たぶんこうしたことから広がっていくんじゃないかな、と思いながら撮影しています。

 

 

泡メルヘン写真 緑の水草をバックに酸素気泡を撮影

 

<全てが被写体になる>

何でも撮影してみましょう。

水、光、ダイバーが吐いた泡、魚、サンゴ、ウミシダ、海藻・・・

 

最初は見たことない魚を追いかけてしまいますが、それから解放されてからが水中写真の本当のスタートです。

 

 

重要なことなのでもう一度言いますね。

「良い水中写真を撮りたければ、レアものを追いかけるダイビングを止めましょう」

 

 

ヴィンセント・ファン・ゴッホもこう言っています。

「素晴らしい景色を探すのを止めよう。よく見ると、どんな景色も素晴らしい」

 

 

普通の生物をありのまま、あるいは技巧をこらして撮影してみましょう。彼らの暮らしというストーリーを撮ってみるのも良いでしょう。きっと新しい世界が開けるはずです。

 

 

ナベカのペアの求愛風景
ナベカのペアの求愛風景。水深2mの誰もが素通りする場所に、しかもたくさんいる魚です

 

<謙虚な気持ちで>

日本を代表する水中写真家である中村征夫さんは、私が尊敬する水中写真家の一人です。

あれほど成功されているにも関わらず、中村征夫さんは潜る際に「海に、お邪魔する」という気持ちで潜ってらっしゃるそうです。

 

 

<一期一会>

生物との出会いは一期一会です。

出会うことができたら、その場でできるだけ後悔の無いように撮影しましょう。

 

中には、当分の間や、あるいはきっともう二度と出会うことが無い出会いもあります・・・

 

 

深海魚チョウチンアンコウ 一期一会
一期一会、深海魚チョウチンアンコウ

 

<海や、生物を好きになる>

何度も水中世界を訪問していると、次第に海の中の生き物たちが好きになってくると思います。

気に入ったダイビングポイントに通っていれば、その海自体が好きになっていくことでしょう。

 

良い写真を撮るためには、相手を好きになることが一番の近道です。

魚を、ウミウシを、風景を好きになり、彼らの良いところを見つけましょう。

どこをどう撮れば彼らが一番良い感じに写るか、そしてその写真を見せた人にも好きになってもらえるか、考えてみましょう。

 

 

 

ペアのヤドカリ

 

<生物に敬意を払う>

水中世界に住んで生活している魚たちとは異なり、我々ダイバーは陸上世界からの訪問者です。

理想を言えば、生物たちの暮らしが、我々が訪問した影響が無いようにお邪魔させてもらうのが理想だと思っています。

 

野生の自然に暮らす彼らをリスペクトし、彼らの邪魔や、嫌がることはなるべくせずに、自然な彼らの暮らしぶりを撮影しましょう。

 

一定の距離を保ってじっと静かに対峙すると、彼らも秘密にしていた自然な振る舞いを垣間見せてくれることがあります。

 

彼らに受け入れてもらうことができ、大自然の秘密の一旦を覗かせてくれた喜びの瞬間です。

 

野生に誇り高く生きるブラックバス

 

・水中写真 用語集

カメラや水中写真についての専門用語集はこちらをどうぞ。

 

 

・水中撮影テクニック

より詳細なテクニックや理論などは、こちらの水中撮影テクニックをどうぞ。

 

 

 

Text by 中野誠志